医療観察法.NET

心神喪失者等医療観察法 全文1 第一章 総則

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の
医療及び観察等に関する法律

(平成十五年七月十六日)
(法律第百十号)
第百五十六回通常国会
第一次小泉内閣

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律をここに公布する。

 

 

第一章 総則

第一節 目的及び定義

(目的等)
第一条 この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為(他人に害を及ぼす行為をいう。以下同じ。)を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進することを目的とする。
2 この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるように努めなければならない。

(定義)
第二条 この法律において「保護者」とは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)第二十条第一項又は第二十一条の規定により保護者となる者をいう。
2 この法律において「対象行為」とは、次の各号に掲げるいずれかの行為に当たるものをいう。
一 刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八条から第百十条まで又は第百十二条に規定する行為
二 刑法第百七十六条から第百七十九条までに規定する行為
三 刑法第百九十九条、第二百二条又は第二百三条に規定する行為
四 刑法第二百四条に規定する行為
五 刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百四十三条(第二百三十六条又は第二百三十八条に係るものに限る。)に規定する行為
3 この法律において「対象者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 公訴を提起しない処分において、対象行為を行ったこと及び刑法第三十九条第一項に規定する者(以下「心神喪失者」という。)又は同条第二項に規定する者(以下「心神耗弱者」という。)であることが認められた者
二 対象行為について、刑法第三十九条第一項の規定により無罪の確定裁判を受けた者又は同条第二項の規定により刑を減軽する旨の確定裁判(懲役又は禁錮この刑を言い渡し執行猶予の言渡しをしない裁判であって、執行すべき刑期があるものを除く。)を受けた者
4 この法律において「指定医療機関」とは、指定入院医療機関及び指定通院医療機関をいう。
5 この法律において「指定入院医療機関」とは、第四十二条第一項第一号又は第六十一条第一項第一号の決定を受けた者の入院による医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院(その一部を指定した病院を含む。)をいう。
6 この法律において「指定通院医療機関」とは、第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者の入院によらない医療を担当させる医療機関として厚生労働大臣が指定した病院若しくは診療所(これらに準ずるものとして政令で定めるものを含む。第十六条第二項において同じ。)又は薬局をいう。

第二節 裁判所

(管轄)
第三条 処遇事件(第三十三条第一項、第四十九条第一項若しくは第二項、第五十条、第五十四条第一項若しくは第二項、第五十五条又は第五十九条第一項若しくは第二項の規定による申立てに係る事件をいう。以下同じ。)は、対象者の住所、居所若しくは現在地又は行為地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
2 同一の対象者に対する数個の処遇事件が土地管轄を異にする場合において、一個の処遇事件を管轄する地方裁判所は、併せて他の処遇事件についても管轄権を有する。

(移送)
第四条 裁判所は、対象者の処遇の適正を期するため必要があると認めるときは、決定をもって、その管轄に属する処遇事件を他の管轄地方裁判所に移送することができる。
2 裁判所は、処遇事件がその管轄に属さないと認めるときは、決定をもって、これを管轄地方裁判所に移送しなければならない。

(手続の併合)
第五条 同一の対象者に対する数個の処遇事件は、特に必要がないと認める場合を除き、決定をもって、併合して審判しなければならない。

(精神保健審判員)
第六条 精神保健審判員は、次項に規定する名簿に記載された者のうち、最高裁判所規則で定めるところにより地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに地方裁判所が任命する。
2 厚生労働大臣は、精神保健審判員として任命すべき者の選任に資するため、毎年、政令で定めるところにより、この法律に定める精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師(以下「精神保健判定医」という。)の名簿を最高裁判所に送付しなければならない。
3 精神保健審判員には、別に法律で定めるところにより手当を支給し、並びに最高裁判所規則で定めるところにより旅費、日当及び宿泊料を支給する。

(欠格事由)
第七条 次の各号のいずれかに掲げる者は、精神保健審判員として任命すべき者に選任することができない。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 前号に該当する者を除くほか、医事に関し罪を犯し刑に処せられた者
三 公務員で懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
四 次条第二号の規定により精神保健審判員を解任された者

(解任)
第八条 地方裁判所は、精神保健審判員が次の各号のいずれかに該当するときは、当該精神保健審判員を解任しなければならない。
一 前条第一号から第三号までのいずれかに該当するに至ったとき。
二 職務上の義務違反その他精神保健審判員たるに適しない非行があると認めるとき。

(職権の独立)
第九条 精神保健審判員は、独立してその職権を行う。
2 精神保健審判員は、最高裁判所規則で定めるところにより、法令に従い公平誠実にその職務を行うべきことを誓う旨の宣誓をしなければならない。

(除斥)
第十条 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第二十条の規定はこの法律の規定により職務を執行する裁判官及び精神保健審判員について、刑事訴訟法第二十六条第一項の規定はこの法律の規定により職務を執行する裁判所書記官について準用する。この場合において、刑事訴訟法第二十条第二号中「被告人」とあるのは「対象者(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第二条第三項に規定する対象者をいう。以下同じ。)」と、同条第三号中「被告人」とあるのは「対象者」と、同条第四号中「事件」とあるのは「処遇事件(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第三条第一項に規定する処遇事件をいう。以下同じ。)」と、同条第五号から第七号までの規定中「事件」とあるのは「処遇事件」と、同条第五号中「被告人の代理人、弁護人又は補佐人」とあるのは「対象者の付添人」と、同条第六号中「検察官又は司法警察員の職務を行つた」とあるのは「審判の申立てをし、又は審判の申立てをした者としての職務を行つた」と、同条第七号中「第二百六十六条第二号の決定、略式命令、前審の裁判」とあるのは「前審の審判」と、「第三百九十八条乃至第四百条、第四百十二条若しくは第四百十三条」とあるのは「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第六十八条第二項若しくは第七十一条第二項」と、「原判決」とあるのは「原決定」と、「裁判の基礎」とあるのは「審判の基礎」と読み替えるものとする。

(合議制)
第十一条 裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第二十六条の規定にかかわらず、地方裁判所は、一人の裁判官及び一人の精神保健審判員の合議体で処遇事件を取り扱う。ただし、この法律で特別の定めをした事項については、この限りでない。
2 第四条第一項若しくは第二項、第五条、第四十条第一項若しくは第二項前段、第四十一条第一項、第四十二条第二項、第五十一条第二項、第五十六条第二項又は第六十一条第二項に規定する裁判は、前項の合議体の構成員である裁判官のみでする。呼出状若しくは同行状を発し、対象者に出頭を命じ、若しくは付添人を付し、同行状の執行を嘱託し、若しくはこれを執行させ、出頭命令を受けた者の護送を嘱託し、又は第二十四条第五項前段の規定により対象者の所在の調査を求める処分についても、同様とする。
3 判事補は、第一項の合議体に加わることができない。

(裁判官の権限)
第十二条 前条第一項の合議体がこの法律の定めるところにより職務を行う場合における裁判所法第七十二条第一項及び第二項並びに第七十三条の規定の適用については、その合議体の構成員である裁判官は、裁判長とみなす。
2 前条第一項の合議体による裁判の評議は、裁判官が開き、かつ、整理する。

(意見を述べる義務)
第十三条 裁判官は、前条第二項の評議において、法律に関する学識経験に基づき、その意見を述べなければならない。
2 精神保健審判員は、前条第二項の評議において、精神障害者の医療に関する学識経験に基づき、その意見を述べなければならない。

(評決)
第十四条 第十一条第一項の合議体による裁判は、裁判官及び精神保健審判員の意見の一致したところによる。

(精神保健参与員)
第十五条 精神保健参与員は、次項に規定する名簿に記載された者のうち、地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに裁判所が指定する。
2 厚生労働大臣は、政令で定めるところにより、毎年、各地方裁判所ごとに、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術を有する者の名簿を作成し、当該地方裁判所に送付しなければならない。
3 精神保健参与員の員数は、各事件について一人以上とする。
4 第六条第三項の規定は、精神保健参与員について準用する。

第三節 指定医療機関

(指定医療機関の指定)
第十六条 指定入院医療機関の指定は、国、都道府県、特定独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第二項に規定する特定独立行政法人をいう。)又は都道府県若しくは都道府県及び都道府県以外の地方公共団体が設立した特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。)が開設する病院であって厚生労働省令で定める基準に適合するものの全部又は一部について、その開設者の同意を得て、厚生労働大臣が行う。
2 指定通院医療機関の指定は、厚生労働省令で定める基準に適合する病院若しくは診療所又は薬局について、その開設者の同意を得て、厚生労働大臣が行う。
(平一五法一一九・一部改正)

(指定の辞退)
第十七条 指定医療機関は、その指定を辞退しようとするときは、辞退の日の一年前までに、厚生労働大臣にその旨を届け出なければならない。

(指定の取消し)
第十八条 指定医療機関が、第八十二条第一項若しくは第二項又は第八十六条の規定に違反したときその他第八十一条第一項に規定する医療を行うについて不適当であると認められるに至ったときは、厚生労働大臣は、その指定を取り消すことができる。

第四節 保護観察所

(事務)
第十九条 保護観察所は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 第三十八条(第五十三条、第五十八条及び第六十三条において準用する場合を含む。)に規定する生活環境の調査に関すること。
二 第百一条に規定する生活環境の調整に関すること。
三 第百六条に規定する精神保健観察の実施に関すること。
四 第百八条に規定する関係機関相互間の連携の確保に関すること。
五 その他この法律により保護観察所の所掌に属せしめられた事務

(社会復帰調整官)
第二十条 保護観察所に、社会復帰調整官を置く。
2 社会復帰調整官は、精神障害者の保健及び福祉その他のこの法律に基づく対象者の処遇に関する専門的知識に基づき、前条各号に掲げる事務に従事する。
3 社会復帰調整官は、精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者として政令で定めるものでなければならない。

(管轄)
第二十一条 第十九条各号に掲げる事務は、次の各号に掲げる事務の区分に従い、当該各号に定める保護観察所がつかさどる。
一 第十九条第一号に掲げる事務 当該処遇事件を管轄する地方裁判所の所在地を管轄する保護観察所
二 第十九条第二号から第五号までに掲げる事務 当該対象者の居住地(定まった住居を有しないときは、現在地又は最後の居住地若しくは所在地とする。)を管轄する保護観察所

(照会)
第二十二条 保護観察所の長は、第十九条各号に掲げる事務を行うため必要があると認めるときは、官公署、医療施設その他の公私の団体に照会して、必要な事項の報告を求めることができる。

(資料提供の求め)
第二十三条 保護観察所の長は、第十九条各号に掲げる事務を行うため必要があると認めるときは、その必要な限度において、裁判所に対し、当該対象者の身上に関する事項を記載した書面、第三十七条第一項に規定する鑑定の経過及び結果を記載した書面その他の必要な資料の提供を求めることができる。

 

<< 目次  第一章総則  第二章審判  第三章医療〜第六章 >>

 

関連リンク 医療観察法・審判手続規則対照表 → PDFデータダウンロード

ページの先頭に戻る

トップページに戻る

トップページに戻る メールマガジン登録