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医療観察法省令改正に反対する見解

2008年10月
日本病院・地域精神医学会理事会
理事長 白澤英勝

 

「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療および観察等に観察に関する法律に基づく指定医療機関等に関する省令等の一部を改正する省令(案)等について」の概要が20年7月付けで公表され、7月18日から25日までの極めて短期間の意見募集(パブリックコメント)が行われ、8月から実施されている。
 日本病院・地域精神医学会は医療観察法に関心を抱き、本法の成立に対しては一貫して反対の意見表明をしてきたが、今回の省令改正案には看過できない問題があると考えるので、以下の通り見解を述べる。

改正省令は指定入院医療機関の医療観察法病棟以外の病床(特定病床)と、国公立病院や精神保健福祉法に規定する「指定病院」(特定医療施設)にも臨時の措置として対象者を入院させることができるとするものである。
 省令改正の背景には、指定入院医療機関の整備の遅れに伴う病床不足があり、審判において指定入院医療機関への入院の決定がなされた対象者が、入院先がなく、鑑定入院を行った医療機関に「指定入院医療機関からの外泊の形での入院」が継続されるという重大な人権侵害に相当する入院処遇すら行われている。
 この間の医療観察法の運用をみると、極めて軽微な対象行為に過ぎない者が法の対象者として指定入院医療機関に入院しており、それとは逆に指定入院医療機関の病床不足のため、申立ての取り下げや却下も行われるなど、法の恣意的な運用がなされている。また、昨年7月には、医療観察法の申立てがあった事例について、原審(地裁)は精神保健福祉法による入院で足りるとしたが、検察官による抗告で高裁は原審取り消し・差し戻しの決定をした。それに対して対象者からなされた再抗告を、最高裁は棄却し、法の厳格な適用を求めているが、このような法の恣意的な運用と機械的な適用との相反する事態すら生じており、本法の対象者である精神障害当事者には説明不可能な事態を招いているといわねばならない。
 このたびの厚生労働省の省令改正は、臨時的な措置としながらも、指定入院医療機関(病床)以外の場所での対象者処遇を可能にするものである。しかし、省令改正によって設けられた特定病院は指定入院医療機関の管理・監督下に置かれ、治療や社会復帰に関する医療権限は何ら担保されておらず、一時的収容施設に過ぎない。指定入院医療機関は本法の根幹をなす施設であるにもかかわらず、省令改正という姑息な手段で特定病院との冠を付けることにより、事実上一般精神科医療の中に医療観察法を導入することは、国がこれまで医療観察法の制度を説明してきた論理を自ら放棄すると共に、その制度的な破綻を認めているといわねばならない。
 以上から本学会は、このたびの省令改正に反対の態度表明を行うとともに、法そのものの存続にも反対するものである。

 

参照資料
官報4883号より(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律に基づく指定医療機関等に関する省令の一部を改正する省令)pdf 36KB

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関連して出された通達
障害保健福祉部長から
障害保健課長から
近畿厚生局から

 

 

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