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精神科医療に関する基礎資料−精神科医療の向上を願って− (平成20年版)

 

伊藤哲寛(精神科医)
2008年7月 

 

目次

1. はじめに

2. 精神障害者数

3. 病院数と病床数

4. 精神科診療所の急増

5. 精神病床配置の状況

6. 精神病床数と平均在院日数の各国比較

7. 平均在院日数と地域間格差

8. 精神病床における社会的入院患者

9. 一般入院医療と精神科入院医療の比較

10. 精神科病院の従事者数

11. 精神科病院の医療法遵守率

12. 措置入院の運用実態

13. 入院形態と入院病棟

14. 隔離・拘束されている患者数

15. 退院請求件数などの推移と精神医療審査会の機能

16. 精神科医療の第三者評価と透明性の向上

17. 精神科救急医療体制の課題

18. 精神科医療費

19. 精神障害者のための社会資源

データから読みとれる精神科医療施策の問題点

 

 

1.はじめに


 医療観察法や障害者自立支援法の制定が検討されるようになった2003年に「精神科医療に関する基礎資料 平成15年版」を作成した。新法制定によって精神科医療の改善がないがしろにされるのでないかとの危機感からであった。
  それから早くも5年を経過した。その間に医療観察法、障害者自立支援法、改正精神保健福祉法が施行された。国際的には「障害者の権利に関する条約」が締結され、わが国も調印した。その間に精神科医療はどう変わったのだろうか。いずれ批准することになる「障害者の権利に関する条約」に耐える精神保健医療福祉を構築することができるのであろうか。精神科医療の現状を今一度把握し、課題を整理しておく必要がある。
  折しも、厚生労働省では「今後の精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」を2008年4月に立ち上げ、新たな施策についての検討を開始している。社会治安あるいは既得権益を優先させることのない精神障害者の立場に立った施策提言が求められる。
  本資料は可能な限り最新のデータをまとめたものであるが、個人的な作業であるので重要なデータの見落としや誤りがあるかもしれない。
  5年前の資料と比較しながら、そしてデータ補充・修正によって、多くの人に活用されることを願う。

 

2. 精神障害者数


精神障害を理由として医療機関を訪れる人々が年々増加している。特に気分障害、ストレス関連障害の通院患者の増加が著しく、それぞれ全通院患者の33%, 22%と両者で55%を占めている。

精神障害者総数: 303万人(通院268万人 入院35万人)
   ○統合失調症圏 76万人 (通院 56万人 入院20万人)
   ○気分障害圏  92万人 (通院 89万人 入院 3万人)
   ○神経症圏   59万人 (通院 58万人 入院0.5万人)

 

3.病院数と病床数

 

表1 病院数と病床数の推移 (医療施設調査)
 
1987
1990
1993
1996
1999
2002
2004
2005
2006
総病院数
9,841
10,096
9,844
9,490
9,286
9,187
9,077
9,026
8,943
総病院数(x100)* 1,582,3 1,676,8 1,680,9 1,664,6 1,648,2 1,642,5 1,631,5 1,631,4 1,626,6
精神科
病院数
1,044
1,049
1,059
1,057
1,060
1,069
1,076
1,073
1,072
精神病床
(x100)
347,2
359,1
362,4
360,9
358,5
356,0
354,9
354,3
352,4
人口10万対
精神病床
284.0
290.5
290.5
286.7
282.9
279.3
278.0
277.3
275.8
*診療所の病床数を除く

 


○ 総病院数は90年代初頭のピーク時から10%減少し 総病床数も3%程度減少している。
○ それに対して精神科病院数は2004年まで増え続け、その後現在までほとんど減っていない。精神病床数は病院全体の総病床数と同様に1993年のピーク時の3%減少しており、総病床数に占める精神病床の割合は21.7%とこれまでと変わっておらず、依然として高い。
○ 人口万対精神病床数も90年、93年のピーク時から5%の減少に留まっている。

 

4. 精神科診療所の急増


○ 近年、精神科を標榜する診療所が急激に増え、2005年にはついに5000カ所を超えた。神経科や心療内科を標榜する診療所も増えた。日本精神科診療所協会所属診療所は1,380施設(2007年)になっている。
 このことから診療所で働く精神科医が増える一方で病院勤務の精神科医が減る傾向がある。

表2 精神科・神経科・心療内科を標榜する診療所数の推移 (医療施設調査)
 
1984
1987
1990
1993
1996
1999
2002
2005
実数
施設数に対
する割合(%)
診療所総数
78,332
79,134
80,852
84,128
87,909
91,500
94,819
97,442
100.0
精神科
1,425
1,765
2,159
2,644
3,198
3,682
4,352
5,144
5.3
神経科
1,591
1,604
1,797
2,016
2,231
2,454
2,590
2,839
2.9
心療内科
662
1,573
2,317
3,092
3.2

 

 

5. 精神病床配置の状況


上述のように精神科病院数はほとんど変わらないが、精神病床数はこの15年で3%減少している。以下、精神病床の配置状況について細かく検討する。
1) 精神科病院と一般病院精神科の動向

表3 精神科を標榜科に掲げる一般病院数の年次推移(病院報告)
 
1987
1990
1993
1996
1999
2002
2004
2005
2006
実数
施設数に対
する割合(%)
一般病院総数
8,765
9,022
8,767
8,421
8,222
8,116
7,999
7,952
7,870
100.0
精神科標榜病院数
1,001
1,139
1,255
1,329
1,333
1,430
1,482
1,503
1,514
19.2

 

表4 精神病床を有する病院の内訳 2006.10.1医療施設調査
 
総数
精神科病院
一般病院 *
病院数
1,667
1,072
595
精神病床数
352,437
259,580
92,857
* 医療法が改正され、総合病院という病院類型はなくなったので,「いわゆる総合病院」の精神病床がどの程度あるかの正確なデータはない。

 

 


○ 精神科を標榜する一般病院数は表3のように増えている。いわゆる総合病院で外来だけの精神科を有するところが増えたこと、そして後述のように精神科病院の一部に一般病床を併設し一般病院として届ける病院もあることによる。
○ 一方、精神病床を持つ一般病院は2006年時点で、表4のように、595病院あり、一般病院の精神病床は9万3千床あることになっている。総精神病床のうち一般病院の精神病床が26%を占めていることになる。しかし、精神科病院であっても精神病床がその病院全体の病床数の80%以下であれば一般病院として計上されるので、この595の一般病院のなかには単科の精神科病院といってもよいものが相当数含まれる。
○ さらに、別紙の一覧表に示すように、2000年以降、精神科医偏在や経営上不採算であるとの理由で、地方の精神科医療を中核的に担ってきた一般病院の精神科病棟が休止、廃止され、さらに外来も休診するところが出てきている。
○ 以上の状況は図1にも示されている。すなわち単科精神科病院の精神病床数はほとんど減らず、総合病院精神病床が減少している。精神病院を減らし、各地に総合病院精神科を配置・強化してきた欧米と大きな違いである。

 

図1

図1


2) 精神病床配置の地域間格差
   精神病床数の地域差(2006年)  全国平均27.5床/人口1万
      病床の多い地域: 鹿児島(52.3床)、長崎(55.3床)、宮崎(52.4床)
      病床の少い地域: 神奈川(16.2床)、滋賀(17.4床)、愛知(18.1床)
○ 精神病床配置数の地域間格差は依然として著しい。

 

6. 精神病床数および平均在院の各国比較

 

図2

 

< 退院者平均在院日数 2005年 >
デンマーク
5.2
アメリカ合衆国
6.9
フランス
6.5
イタリア
13.3
オーストラリア
14.9
カナダ
15.4
スウェーデン
16.5
ドイツ
22
オランダ
22.6
イギリス
57.9
日本
298.4
日本以外の平均
18.1
2005年診断分類別精神及び行動の障害 (OECD Health Date 2008) 
日本は厚生労働省「患者調査」退院者平均在院日数より

 

表5 人口万対精神病床数(OECD)
日本 イギリス フランス イタリア スウェーデン アメリカ カナダ 韓国
28
7
10
1
5
3
3
8
出典:OECD Health Date 2007
(アメリカ・カナダは2004年、その他の国は2005年のデータ)

 

 

表6 欧米諸国と日本における精神科医療の場の比較(人口1万対資源)
 
精神病院
一般病院*
その他
日  本 *
28.4
20.6
7.8
米  国
9.5
3.5
2.0
4.0
カナダ
19.3
9.1
5.1
5.2
イタリア
1.7
0.0
0.8
0.9
オーストラリア
4.1
1.8
1.5
0.7
フランス
12.1
7.7
2.3
2.2
*日本の一般病院には80%以上が精神病床の精神病院を含む
(出典   WHO : Atlas, country profiles on mental health resources,2001)

 

 

7. 平均在院日数と地域間格差


○ 平均在院日数は図4のようにここ数年減ってきている。しかし、高齢の長期入院者が在院患者の相当部分を占めており300日を切っていない。
○ 精神病床数と同様に平均在院日数も地域格差が著しい。

 

図4

 


平均在院日数の地域差(2006年) 全国平均365日
      比較的短期入院の地域: 東京262日、長野県270日、岡山県276日
      極めて長期入院の地域: 鹿児島552日、徳島446日、茨城県432日

 

 

8. 精神病床における社会的入院患者


○ 図5のように、精神病床への長期在院患者はなお多数を占め、2005年の時点で5年以上入院している患者は132,000人と全入院患者の約41%を占める。そのうち20年以上入院している患者は45,000人を超え14%を占める。国は社会的入院患者を7万人と推定しているが、これまでの諸調査から実際はもっと多い。

 

図5


○ 「障害者プラン−ノーマライゼーション7カ年戦略−」(1996年)あるいは「精神保健医療福祉の改革プラン」(2003)以降も、精神障害者の地域移行は進まず、多くの社会的入院患者が精神病床にとどまっている。 ○社会的入院に関連するこれまでの調査

1)厚生省調査(1983)    退院可能・条件が整えば退院可能
23.4 %
2)日本精神神経学会(1989) 社会的理由による2年以上の入院者
33.1 %
3)日本精神病院協会(1989) 寛解・院内寛解
12.9 %
4)全国精神障害者家族連合会(1995)
       社会資源が整備されれば退院可能な1年以上の入院者
39.7 %
5)日本精神神経学会(1999) 条件が整えば6ヶ月以内に退院可能な2年以上の入院者
32.5 %
6)文部省科学研究(1999)  入院1年以上の患者のうち退院可能群
50.5 %
7)日本精神科病院協会「社会復帰サービスニーズ等調査企画委員会」(2003)                
現在の状態でも条件が整えば退院可能
15.0 %
8)平成19年厚生労働科学研究こころの健康科学事業(2008)
 精神病床の利用状況に関する調査(速報)        
33.6 %
       居住先・支援が整えば現在又は近い将来可能
54.6 %

9. 一般入院医療と精神科入院医療の比較


 一般科の医療と比較して、精神科医療にはより公的機能が期待されているにかかわらず、公的病床が少ない。また入院治療が中心で、病床が満度に近く埋まり、外来患者割合が少ないという状況が未だに続いている。

表7 一般病床と精神病床の比較 (2006年医療施設調査・病院報告)
項    目
一般病床
精神病床
公的病床の割合
  28.8%
  9.6 %
平均在院日数
19.2 日
320.3日
病床利用率
78 %
91 %
外来数/入院患者数*
131 %
22 %
* 精神科病院と一般病院の比較

 

 

10. 精神科病院の従事者数


○ 精神科で働く職員数は近年徐々に増えている。精神科医師数も1994年の10,038人から2006年の12,829人へと増えている。ただし、診療所に働く医師の割合が12%から21%に増えており、精神病床に係わる医師数は2004年のピーク時よりも減る傾向にある。
(医師・歯科医師・薬剤師調査)
○ 国によって、医療制度や専門職の資格制度が異なるために、単純比較はできないが、表9に示したように、アメリカにおける精神科看護師数を例外として、精神科医・看護師・PSWの一人当たり受け持ち病床数がわが国では飛び抜けて多いのが特徴である。
○ なお、わが国には医療に携わる臨床心理士の資格制度はない。従って表の臨床心理士配置数には専門の臨床心理技術者以外の職員も計上されている。

表8  100床当たり従事者数(常勤換算)
精神科病院
一般病院
総数
62.0
110.6
医師
3.2
12.6

表9 精神科医療従事者数の諸外国との比較
 
精神科医師
精神科看護師
PSW
臨床心理士
人口10万対数
担当
病床数
人口10万対数
担当
病床数
人口10万対数
担当
病床数
人口10万対数
担当
病床数
日本
9.4
30.2
59.0
4.8
15.7
18.1
7.0
40.6
アメリカ
13.7
5.6
6.5
11.8
35.8
2.2
31.1
2.5
イギリス
11.0
5.3
104.0
0.6
58.0
1.0
9.0
6.4
オーストラリア
14.0
2.8
53.0
0.7
5.0
7.8
5.0
7.8
カナダ
12.0
16.1
44.0
4.4
NA
NA
35.0
5.5
ドイツ
11.8
6.4
52.0
1.4
447.0
0.2
51.5
1.5
フランス
22.0
5.5
98.0
1.2
NA
NA
5.0
24.0
フィンランド
22.0
4.5
180.0
0.6
150.0
0.7
79.0
1.3
(Atlas county profiles on mental health resources,WHO,2005)

 

 

11. 精神科病院の医療法遵守率


遵守率は向上している。しかし、職員遵守率については職員配置数がもともと一般病床に比較して低く設定された基準に照らし合わせた上での遵守率であること、立ち入り検査が第三者機関とはいえない保健所によるものであることに留意するべきである。 また、医師数については精神科医以外の医師も含まれることに留意する必要がある。

表10 医療法29条による立入検査結果
 
1999年
2005年
医師充足率 
77.1 %
90.3%
看護婦遵守率
96.8 %
99.3%
薬剤師充足率
81.1 %
86.7%
病室定員の遵守
84.9 %
94.9%
院内掲示
93.1%
96.1%

 

 

12. 措置入院の運用実態


○措置入院の運用については、新規措置入院率および措置入院期間の大きな地域間格差、東京都などに見られるように精神科救急の便法としての措置入院適用など、その運用の恣意性が問題となっている。2005年のデータでは措置解除までの期間が短縮されていることもあって、表11のように在院患者に占める措置患者数はこの5年間で減少している。

表11 措置入院患者数の推移
 
措置入院患者数(%)
総在院患者数
2000年
3,247人  (1.0%)
333,003人
2005年
2,276人  (0.7%)
324,335人
6月30日調査

 


○しかし、表12のようにいまだに措置入院患者が極端に多い地域と少ない地域があり、鹿児島県、佐賀県では10年以上措置入院している患者がそれぞれ45%,38%もいる一方、東京都では3ヶ月未満の患者が76%で、10年以上入院している患者は4%に満たない。このように依然として運用基準が地域によって異なっている。
○ 医療観察法の施行後、措置入院の新規件数、地域間格差、救急適用、入院期間などがどう変わるのか。今後の分析が必要である。

表12 人口万対措置入院患者数 (2005年6月30日調査)
全国平均
0.17
多い地域
佐賀県
広島県+広島市
鹿児島県
0.63
0.49
0.55
少ない地域
香川県
宮崎県
京都府+京都市
0.02
0.05
0.06

 

 

13. 入院形態と入院病棟


○2000年に比較して措置・任意・その他の入院が減り、医療保護入院の割合が多くなっている。
○任意入院で終日閉鎖の病棟で療養している患者の割合が増えている。

表13 入院形態と入院病棟 (6.30日調査) (%)
 
夜間外開放
終日閉鎖
左記以外
全体
  2000年 2005年 2000年 2005年 2000年 2005年 2000年 2005年
措置入院
3.5
2.5
84.5
91.4
12.0
6.0
1.0
0.7
医療保護入院
14.7
15.4
68.8
76.8
16.5
7.8
31.6
36.4
任意入院
43.5
45.9
32.5
43.5
24.0
10.6
66.3
62.4
その他
66.6
39.6
23.2
34.8
10.0
25.6
1.1
0.5
  計
34.2
36.4
44.4
55.9
21.4
9.6
100
100

 

図6

 

図7

 

14. 隔離・拘束されている患者数


この5年間隔離患者数は減少しておらずむしろ増える傾向がある。

表14 行動制限を受けている患者数の推移
 
2000年
2005年
隔離患者数
7,161
8,097
身体拘束患者数
データなし
5,623
厚生労働省6月30日調査

 

 

15. 退院請求件数などの推移と精神医療審査会の機能


○ 退院請求に関する審査件数は少しずつ増えており,病院内部から外部への風通しは少し良くなっているようである。しかし、強制入院患者数が多い割には請求件数が少ない。また、任意入院患者が閉鎖病棟に多数入院している実態を踏まえると処遇改善請求件数も少なすぎる。
○ これまで同様に都道府県によって請求件数に大きな差がある。大阪、東京、福岡、京都、岡山などで多いが、その他の地域では少ない。
○なお、2005年時点で電話が設置されていない閉鎖病棟が96病棟もある。(2005.6.30調査)

表15 退院請求件・処遇改善請求件数の推移2004
 
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
退院請求件数
1468(46)
1423(83)
1829(109)
1995(117)
1902(122)
2079(126)
2098(92)
処遇改善要求
104 (3)
100 (5)
 130 (17)
153 (19)
177 (16)
193 (10)
174(15)
(  )内の数字は入院または処遇が不適当とされた件数

 

図8


精神医療審査会の状況
(平成13年度厚生科学研究「人権擁護のための精神医療審査会の活性化に関する研究」)
   ○ 合議体数の不足(迅速な審査が行われていない)
   ○ 委員構成が医療委員に偏り、公平性に問題がある。
   ○ 退院請求・処遇改善請求の低さと地域格差がある。
   ○ 任意入院患者に対する人権擁護機能が不十分。

 

16. 精神科医療の第三者評価と透明性の向上


 精神保健医療福祉改革ビジョンで示されたように、精神科医療の透明性を高め、国民のからの信頼を確かなものにするためには、第三者評価と情報公開が重要である。このことは患者の「知る権利」や「適正医療を受ける権利」を保障することにも繋がる。
   a)第三者による医療機能評価
   ○代表的なものとして日本医療機能評価機構 による「病院機能評価」があり、受審した病院の評価結果が日本医療評価機構のホームページで公開されている。2008年1月時点でわが国の全病院の27%が認定を受けているが、単科精神科病院の認定は徐々に増えているものの18%にとどまっている。
   ○第三者による医療機能評価のもう一つは市民団体によるものである。たとえば、大阪・東京・新潟・静岡などでは、病院訪問調査で得た資料と情報開示請求で得た行政資料を付き合わせて、その地域の精神科病院の状況を分析評価している。しかし、自治体からの補助金の削減などもあり活動が停滞することが危惧される。
  b)情報公開
   ○ 精神科病院のホームページ開設率は一般病院よりも低いものの少しずつ増えており、厚生労働省の2005年医療施設調査によると60%の精神科病院がホームページを持っている。しかし、その内容は不十分で職員数、設備、入退院状況、外来患者数、救急対応、安全管理体制などを掲載している病院はきわめて少ない。ましてや個別の病院における行動制限などの実態をホームページで知ることはできない。(米国のカルフォルニア州では州立精神病院で行われた隔離・拘束の件数がインターネットで公開されている。)
   ○ 行政による精神科病院情報サービスも不十分で、保健行政機関が把握している資料に住民が気軽にアクセスできる仕組みになっていない。

 

17. 精神科救急医療体制の課題


 2018年度から「精神科救急体制整備事業」が見直されることになっているが、精神病床と精神科医の偏在など地域精神医療の基盤整備が十分でない状況のなか、どこまで有効な救急体制を組むことができるのか見通しは厳しい。 10年前に指摘されていた次のような問題が未だ解決されていない。
   1) 精神保健指定医の確保が困難
   2) 受け入れ医療機関確保の困難、偏在
   3) 病床利用率が高く空床・個室確保の困難
   4) 医師・看護婦・PSW等を夜間に配置できない
   5) 身体合併症患者の治療体制が未整備
   6) 夜間搬送体制の不備
   7) 国・自治体による助成額が低い
   8) 精神科救急情報センターの未整備
    (平成9年度厚生科学研究「精神科救急に関する研究」などから)

18. 精神科医療費


○ 2006年度の日本の医療費の対GDP比は30カ国の中で第21位である。
   「社会実情データ図録」(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1890.html)
○ その上、 精神科の一日当たり入院医療費は、一般病床の1/2から2/3にすぎない。

表16 国民総医療費対GDP比の国際比較 OECD Health Data 2007
 
対GDP比 %
一人当たり医療費(万円)
日本
8.0
26
アメリカ
15.3
71
イタリア
8.9
28.
フランス
11.1
38
ドイツ
10.7
37
イギリス
8.3
30

 

表17 国民医療費と精神科医療費(資料:国民医療費)
 
  1990
 1992
 1994
 1996
 1999
 2005
国民医療費
20.61兆
23.48兆
25.79兆
28.52兆
30.94兆
33.13兆
精神医療費
     (%)
 1.23兆
  (5.9)
 1.35兆
  (5.8)
 1.48兆
  (5.7)
 1.47兆
  (5.1)
 1.62兆
  (5.2)
 1.89兆
  (7.6)
内入院医療費
     (%)
1.06兆
  (86.2)
1.13兆
  (83.7)
 1.21兆
  (81.8)
 1.15兆
  (78.2)
 1.25兆
 (76.8)
 1.4兆
 (74.4)
内外来医療費
     (%)
 1161億
(9.4)
 2272億
(16.8)
 2705億
(18.2)
 3191億
(21.7)
 3769億
(23.2)
 4824億
(25.5)

 

   出典:社会実情データ図(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1890.html)

 

19. 精神障害者のための社会資源


 2006年に障害者自立支援法が施行され、これまでの精神保健福祉法上の精神障害者社会復帰施設や居宅支援事業などが新たな福祉サービス体系の施設・事業に移行しつつあり、その全体状況はまだ明らかでない。ここでは障害者自立支援法施行直前のデータを参考に示す。

表18 精神障害者社会復帰施設(旧体系)の設置か所数(2004年、2005年)
 
生活訓練施設
福祉ホーム
授産施設
福祉工場
地域生活支援センター
A型
B型
通所
入所
小規模作業所
2004年
282
132
88
265
29
308
18
446
2005年
289
134
98
291
29
375
18
472

 

データから読みとれる精神科医療の課題


(1) 精神科医療を必要としている人々が急増している。なかでも外来診療の需要が急増し、精神科クリニック等への需要が高まり、精神科医が病院から診療所へ移る傾向が見られるようになった。
(2) 精神病床数は多いが、病床の偏在があり、地域に適正に配置されていない。
(3) 一般病院あるいは公的病院の精神病床が減少しているが、精神科病院の精神病床はほとんど減っていない。欧米の近年の精神科医療施策とは逆方向にある。
(4) 精神科病院では一般病院に比較して外来患者数が少なく、入院中心の精神科医療が続いている。
(5) 社会的入院が多く平均在院日数が著しく長い。しかも、大きな地域間格差がある。
(6) 一般科の医療あるいは欧米の精神科医療に比較して、精神病床に係わる専門職が著しく少ない
(7) 多数の任意入院患者が閉鎖病棟で治療を受けている
(8) 退院請求、処遇改善請求権が十分活用されておらず、精神医療審査会のあり方についても見直しが必要である。
(9) 措置入院の運用に無視できない地域差がある。医療観察法後の措置入院制度の運用実態の変化についてのデータが不足している。
(10) 精神科救急医療がうまく動いていない。
(11) 精神科の入院医療費が低く抑えられている
(12)障害者自立支援法施行後の精神障害者ための社会基盤整備の状況がまだ明らかでない。整備の進み具合が遅くなった可能性もある。

 


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