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心神喪失者等医療観察法 Q & A 11〜15


Q11.医療観察法は長ければ、どのくらいの期間入院することになりますか?

Answer 11.
 入院処遇の入院期間に上限を定めた規定はありません。
 指定医療機関は入院決定後6ヶ月ごとに裁判所に入院継続の確認の申し立てをしなければならないという規定(第49条)がありますが、これを裁判所が認める限り、この延長は限りなく更新されます。その更新延長に限度を設ける規定はありません。
 厚労省の「ガイドライン」は、入院期間を、急性期12週、回復期36週、社会復帰期12週の3段階に分けて、治療プログラムの進行をはかるというモデルを想定し、この1年6ヶ月間を標準的な在院期間としていますが、これは単なるモデルに過ぎません。
 対象者は、裁判所が、法の定める「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要があると認められなく」なったとして、通院治療への移行、または退院を決定しない限り、いつまでも退院することはできないのです。したがって事実上無期限の拘束になる可能性を否定できません。
  一方通院処遇においては、標準3年(前期1〜6ヶ月、中期7〜24ヶ月、後期25〜36ヶ月)をモデルとしながら、最長5年を超えることはないと規定(第44条)されています。

渡邊哲雄(精神科医)
2007年7月

Q12.弁護人依頼権など、対象者の権利は保障されていますか?
 付添人(弁護人)はいつまで対象者をサポートするのですか?

Answer 12.
 対象者もしくは保護者には、刑事事件における弁護人を依頼する権利と同じように、付添人弁護士を依頼する権利があります(第30条1項)。付添人弁護士は、対象者の味方として、対象者の相談に乗りながら、裁判所に意見書を出すなどして法的な手続を行います。付添人弁護士を頼みたいのだけれども知り合いの弁護士がいない場合には、最寄りの弁護士会に相談すれば、弁護士を紹介してもらえるはずです。対象者や保護者が自分のお金で付添人弁護士を依頼することができないときには、国選付添人を裁判所が付けてくれる場合があります。最初の入通院審判とその抗告審の場合には、付添人弁護士がいなければ必ず付けてくれますが(第35条)、退院許可申立や処遇終了申立などの審判の場合には、裁判所が特に必要と考えた場合にしか付けてくれません(第30条3項)。
 なお、付添人弁護士の役割は決定が出るまでの間なので、たとえば、入院決定が出たあとに退院許可申立をしたい場合には、あらためて付添人弁護士を頼む必要があります。

大杉光子(弁護士)
2007年7月

Q13.地方裁判所の決定に不服がある場合、対象者は不服申し立てができますか?

Answer 13.
 地方裁判所の入院や通院の決定、退院を許可しない決定等に不服がある場合、対象者や保護者、付添人は抗告申立をすることができます(第64条2項)。その場合には、決定が出された日から2週間以内に、高等裁判所宛の抗告申立書を元の決定を出した地方裁判所に提出しなければなりません。この抗告申立書には、法律違反や事実認定の間違い、処分の著しい不当などの抗告したい理由を書く必要があります。
 地方裁判所の決定に不服がある場合には、付添人に相談して抗告申立をしてもらうのが良いと思います。ただし、入院決定が出された場合にはその日のうちに指定入院医療機関という特別の病院に連れて行かれてしまいますので、遠方の病院の場合には、付添人と会って相談することは難しいかもしれません。その場合には、電話で相談するという方法もあります。
 抗告すると高等裁判所での審理が行われることになりますが、その場合には、改めて付添人を付けることになります。地方裁判所のときと同じ付添人を付けることもできますし、別の弁護士にしてもらうこともできます。自分で付けることができない場合には、裁判所が国の費用で付けてくれます。
 抗告の決定に不服がある場合には、最高裁判所に再抗告申立をすることができます(第70条)。この場合には、憲法違反や判例違反などの理由が必要です。
 なお、抗告しても、入院や通院の決定の効力は失われませんので、入通院はそのまま続くことになります(69条)。
 抗告で一番注意をしておかなければならないのは、決定から2週間以内に申立をしておかなければならないということです。そして、その際には、多少不十分な理由であっても、後から補充することも許されるので、とにかく理由を書いて出すということが重要です。

大杉光子(弁護士)
2007年7月

Q14.審判において裁判所が入院決定または、通院決定を行わなかった場合(不処遇)、その後の対象者の処遇と治療はどうなりますか?

Answer 14.
  不処遇となった場合に対象者の処遇や治療は、基本的には本人の自発的な判断に委ねられるべき問題です。精神医療では、措置入院や医療保護入院などの強制入院制度が定められ、また、医療観察法は、徹頭徹尾、患者の自己決定権を軽視して、強制入院及び強制通院の枠組みを嵌めているので、ともすると、精神障害のある人の治療は患者本人の判断よりも医療者や裁判所や家族など他人の判断が優先されるのが普通であるかのように思われがちかもしれません。しかし、精神医療においても、むしろ、精神医療においてこそ患者が主人公であり患者に自己決定権があることがまず明確に確認される必要があります。医療観察法の重大な欠陥の一つは、患者の自己決定権の保障や尊重を欠き、入院や通院を強制され、医療機関や医師を患者が選択する権利もなく、また、治療についても受療義務が規定されている(法43条)点にあります。医療観察法上、不処遇とされたのであれば、患者は自由を回復し、自ら必要と考える医療を自ら望む医療機関で受けることが認められなければなりません。
 もっとも、医療観察法上は不処遇とされたものの、本人の病状は必ずしも良好ではなく、自らの判断で自発的に入院することが困難な場合もないとは言えません。そうした場合には、成年後見制度を利用するなどして適任の保護者を立てて(精神保健福祉法上保佐人及び後見人は保護者となる)適切に医療保護入院の同意の要否を決定することが必要になることもあるでしょう。また、措置入院を用いることもありえなくはありませんが、措置入院が必要であるような状態であれば、通常は医療観察法上の医療の必要性が認められる可能性が高いので、指定入院医療機関が遠隔地にあり、そこへの入院が患者の地域への社会復帰をかえって阻害するなどの特別な理由がない限り、医療観察法が不処遇となり、同時に措置入院となるということは想定しにくいでしょう。

池原毅和(弁護士)
2007年7月


Q15.現在の留置場、拘置所や刑務所などでは、適切な精神科医療が提供されていますか?

Answer 15.
 結論を先に言えば、Noです。以下に、通常とられることが多い刑事手続きの流れに沿って、各段階のことについて触れます。
 まず、警察官に逮捕されると、まず警察署内にある留置場に入ります(いわゆる代用監獄で、これ自体にも大きな問題があるのですが、ここでは省略します)。留置場には専任の医師はいないので、必要なときは警察官とともに近くの病院等を受診します。逮捕前から通院中である場合は、主治医の処方した薬を差し入れできることもあります。しかし、受診の必要性の判断は警察官等に委ねられており、数日間薬を切られることはざらです。主治医から、薬が切られると生命の危機があると警察に告げておいても、しばしば無視されます。
 その後検察官によって裁判に起訴されることが決定されると、その前後に拘置所に移されます。拘置所へ移されてからは原則として施設職員である医師の診療が全てとなります。拘置所に精神科医がいるとは限らないので、受けられる医療のレベルはまちまちです。いたとしても、受けられるのは最低限の薬物療法、しかも薬の種類も限定されたものだけで、カウンセリングなどの精神療法や作業療法、集団療法等はまず受けられません。日本では拘置所の医師は施設職員としての役割が強く、患者の利益より施設の保安を重視する傾向が強いので、この点も治療の妨げになります(このことも国際的には大きな批判があります)。施設内の保安確保という名目で、一人部屋に収容される独居処遇がなされることが多いため、他者との接触がきわめて少ない状況に置かれます。
 裁判で判決が出て、懲役○年等と有罪が確定すると、しばらくしてから刑務所に移ります。ここでも精神科医がいるとは限らず、受けられる治療内容も限られ、医師の施設職員としての役割が大きいことは拘置所と同じです。重度の者は医療刑務所(八王子、岡崎、大阪、北九州と4つあります)へ送られることになっていますが、統計上でも精神障害者の15〜25%は医療刑務所でない刑務所で処遇されています。明らかな統合失調症、躁うつ病、中等度以上の精神遅滞、中等度以上の老年期痴呆を有する者が、精神科医のいない施設で処遇されている場合もあります。
 刑務所を出所する際に、まだ治療を要する症状や障害が残っている場合がありますが、治療の継続についての援助はほとんどありません。紹介状の交付や、適切な医療機関の紹介等もなされない場合の方がはるかに多いのです。生活保護・障害年金や各種福祉手続への援助もほぼ皆無です。そもそも住居の確保すらできない場合も少なくないのです。サポートしてくれる家族等がいない場合は、多くの精神障害受刑者はまさに「放り出される」形で出所となります。
 「精神障害者は犯罪をしても刑罰を受けない」などという誤解がありますが、それは誤りです。法務省から公表されている統計でみても、ある一時点でみると、本邦の受刑者全体で6万人前後のうち450人前後を精神障害者が占めます。受刑者として新しく拘禁される年間2〜3万人のうち、800〜2000名が精神障害者です。裁判で精神障害を理由とした減刑(心神耗弱の認定)がなされている人は年間50〜100名程度に過ぎませんので、受刑する精神障害者の大半は減刑もされていないことになります。法務省の統計には見落としもありますので、実際にはこれらよりも多い数である可能性もあります。

中島 直(精神科医)
2007年7月

 

 

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