医療観察法.NET

あなたやあなたの家族が医療観察法の対象になったら

大久保 圭策 (精神科医)

2007年6月

ここでは、あなた自身やあなたのご家族、あるいは近しい方がこの法律の対象になってしまった時のために、この法律を対象者の側から見るとどう見えるかという視点で、審判までの流れを見て行こうと思います。

この法律は、全国どこでも一律に適用されるとは限りません。地域による違いは、実際にかなりあります。この法律では、裁判官、付添人(弁護士)、審判員(精神科医)、精神保健参与員(精神保健福祉士)、社会復帰調整官(精神保健福祉士など)のほかに、鑑定医(精神科医)、鑑定入院中の担当医(精神科医)が、ひとりの方の処遇の決定に関わりますので、その人たちの考えや意見によっても、審判の内容は微妙に異なることがあります。ですから、これから述べることは、一つの目安と考えてください。

医療観察法というなんだかよく分からない法律で裁判所から呼び出されたりして、とても不安になっておられるだろうと思いますので、その不安が少しでも解消されればと思います。

法律の全体については、この図を見てください。これが、大まかなこの制度による処遇の流れです。この法律の対象になった方について、どのように治療を進めていくかなどは、「処遇」と呼ばれます。

「医療観察法による医療」では、一般の医療とは違って、自分はこうしたいとか、こうしてほしいというようなあなた自身の意見や考えで治療が進められるのではなく、裁判所で行われる審判でどのような処遇が適当かが決められます。

しかし、このような処遇は、あくまであなたが今後適切な医療を受けて社会復帰を果たすことを目的としていますので、あなた自身の考えや希望があればそれを「処遇」に反映させるように求めることはできますし、そのように運用されるべきだと思います。具体的な方法などについては、後で述べます。

1.逮捕と取調べ

この法律が適用されているということは、あなたは警察に逮捕されて、一時的に拘留され、さらに検察の取調べも受けていると思います。その後不起訴になったという場合もあるでしょうし、裁判になってから心神耗弱あるいは心神喪失という判断で無罪になったり減刑されたりしたという場合もあるでしょう。

医療観察法では、対象行為と呼ばれる、逮捕されることになった当の行為について、それが実際に行われたのかどうか、あるいはその責任が誰にあるのかなどについて、一般の刑事裁判のように争われる事はありません。もしも、あなたが逮捕されたりしたことに身に覚えがないとか、警察や検察の取調べでは、自分がやったようにいったけれども、実際には違うというような場合は、そのことについてまず担当になっている付添人(弁護士)に相談してください。

あなた自身と被害者の証言は、違っていることが少なくありません。被害者も自分に不利なことは言わないことが多いからです。たとえば、実際は相手の方から先に殴りかかってきたということで、やむなくあなたが相手を攻撃したのなら、正当防衛ということになって、そもそもこの法律が適用される犯罪を犯していないということになります。

警察での取調べでは、あなたが話した内容が、最終的に調書というものにまとめられ、その文書に署名することを求められます。その内容が、本当にあなたが話したことがらと一致しているかどうかを確認してください。

また、署名した文書の内容が、事実と異なっていても、署名してしまった以上、文句は言えないという風には考えないでください。自分の考えと違うというところがあれば、できるだけ早い時期にあなたを担当している弁護士に伝えてください。

この法律では、先に述べたように、さまざま人があなたの問題にかかわりますが、あなたが不当な不利益を受けないように、あなたを守る役割が付添人です。

付添人は、あなたやあなたの家族が契約することもできますが(私選)、それができない場合でも、国選弁護人が必ずあなたの付添人になっています。

矢継ぎ早にいろいろな人と会うので、誰がどのような役割の人なのか分かりにくくなってしまうかもしれませんが、付添人があなたにとって最も重要な人ですから、必ず確認してください。おそらく、あなたに名刺を渡していくと思いますので、それもなくさないように、何か相談したい場合にすぐに連絡がつくようにしておいてください。それから、あなたにご家族や友人がいて、協力してくれる場合は、その家族に付添人の連絡先を知らせておいてください。

2.鑑定入院

この法律が適用されるかどうかを決めるのは、検察官です。検察官によって申し立てがおこなわれた後、あなたは鑑定入院というのをさせられることになります。

鑑定入院の時点で、あなたはどこか別の病院に既に入院しているかもしれませんし、あるいは通院しているかもしれませんが、あなたの通っている病院でこの鑑定入院を受けるということはできません。鑑定入院先は、裁判所によって決められます。

鑑定入院は、精神科病院の閉鎖病棟になることがほとんどです。入院期間は、2ヶ月。長くても3ヶ月と法律で決まっています。病気がその途中で良くなっても、この期間は短くなりません。鑑定入院中は、原則として、精神保健福祉法で決められている一般的な治療を受けることになります。鑑定入院だからといって、特別な治療を受けることはありませんし、必要もないのに隔離や拘束をされることもありません。ただ、これまで入院を経験したことのある方ならば、その入院と比べて違っているのは、やたらといろいろな人が話を聞きに来て、同じような話を何回もしないといけないことと、心理テストやいろいろな検査を受けさせられることでしょう。検査自体は、普通に行われるものと違いはありません。

この時点で、この法律に関してあなたに関わるのは入院先の担当医、鑑定医と社会復帰調整官と呼ばれる人です。社会復帰調整官は、多くの場合、精神保健福祉士の資格を持っている人です。担当医と鑑定医は同じ医者がおこなう場合が少なくないようですが、鑑定医がほかの病院から何度かあなたと話をしにくるという場合もあります。

誰が鑑定医で、誰が担当医なのか、同じ人物かどうかを確認しておいてください。このあたりのことは、わかりにくければ付添人に聞けば、分かります。

鑑定入院中の治療や身体拘束、隔離などについて、疑問に思うことがあれば、担当医に直接その旨伝えると同時に、付添人にもそのことを相談してください。地域によっては、付添人に協力している外部の精神科医がいる場合もありますので、そのような場合は病気自体や精神科の治療などに関する細かいことでも付添人を通じて協力医に相談することができます。

あなたが鑑定入院までに通院していたり入院したことがあったら、これまで治療を受けてきた中であなたのことをよく分かってくれていると思う医師や精神保健福祉士(ワーカーあるいはPSWと呼ばれることもあります)がいれば、そのことは付添人に伝えてください。その人たちの意見が、審判の際に参考にされる場合があります。

鑑定入院中は、これからどうなってしまうのかということが一番心配でしょう。鑑定入院の後、どのようになるのかは、審判で決定されますが、付添人は審判までに何度か裁判官や鑑定医、担当医、社会復帰調整官と話し合っていますので、審判の結果が予想できる場合もあります。その点も、付添人に尋ねてみてもいいと思います。同時に、あなた自身がどのように治療を受けたいと考えているのかも、伝えておいてください。

それから、あなたがお金の面で困っておられる場合、鑑定入院中でも生活保護を受けることができます。この手続きは、入院先の精神保健福祉士が相談に乗ってくれるはずです。まず、主治医か担当の看護師に伝えてください。

3.審判

審判は、あなたのこれからの処遇を決めるために、裁判官、審判員と呼ばれる精神科医、精神保健参与員、社会復帰調整官、付添人が一同にかいして協議します。可能ならば、あなたもその場に同席します。一般には、検察官も意見を述べます。

何を審判するかというと、中心になる問題は、あなたが「再び同様の行為を行うことなく社会復帰するために、この法律に基づく治療を必要とするかどうか」です。

話し合いの中身で中心になるのは、鑑定の結果です。これは書面で提出されますが、必要に応じて、鑑定医もその審判の場で質問されたり、意見を述べたりします。そのほかに、社会復帰調整官が、これまでのあなたの暮らしぶりや事件までに受けてきた治療の経過などをまとめて文書で提出し、社会復帰の面からの意見を述べます。

付添人は、このような話し合いが、あなたに不利な結論を出すことがないか、一般的な医療ではなくこの法律に基づく治療が本当に必要だといえるのか、あるいはあなたの処遇に不適切なところがないかということを中心に意見を述べます。

審判の結果は、入院処遇、通院処遇、不処遇あるいは却下のいずれかの結論を出します。

審判の結果が、不当だと思ったとき、審判で話し合われた事柄に重大な事実の間違いなどがある場合は、抗告ということができます。抗告というのは、審判の結果について、もう一度検討しなおすことを請求することです。抗告については、あなたの付添人になった弁護士に、まず相談してみてください。

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