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医療観察法 Q & A


Q16.現在の留置場、拘置所や刑務所などでは、適切な精神科医療が提供されていますか?

Answer 16


 結論を先に言えば、Noです。以下に、通常とられることが多い刑事手続きの流れに沿って、各段階のことについて触れます。
 まず、警察官に逮捕されると、まず警察署内にある留置場に入ります(いわゆる代用監獄で、これ自体にも大きな問題があるのですが、ここでは省略します)。留置場には専任の医師はいないので、必要なときは警察官とともに近くの病院等を受診します。逮捕前から通院中である場合は、主治医の処方した薬を差し入れできることもあります。しかし、受診の必要性の判断は警察官等に委ねられており、数日間薬を切られることはざらです。主治医から、薬が切られると生命の危機があると警察に告げておいても、しばしば無視されます。
 その後検察官によって裁判に起訴されることが決定されると、その前後に拘置所に移されます。拘置所へ移されてからは原則として施設職員である医師の診療が全てとなります。拘置所に精神科医がいるとは限らないので、受けられる医療のレベルはまちまちです。いたとしても、受けられるのは最低限の薬物療法、しかも薬の種類も限定されたものだけで、カウンセリングなどの精神療法や作業療法、集団療法等はまず受けられません。日本では拘置所の医師は施設職員としての役割が強く、患者の利益より施設の保安を重視する傾向が強いので、この点も治療の妨げになります(このことも国際的には大きな批判があります)。施設内の保安確保という名目で、一人部屋に収容される独居処遇がなされることが多いため、他者との接触がきわめて少ない状況に置かれます。
 裁判で判決が出て、懲役○年等と有罪が確定すると、しばらくしてから刑務所に移ります。ここでも精神科医がいるとは限らず、受けられる治療内容も限られ、医師の施設職員としての役割が大きいことは拘置所と同じです。重度の者は医療刑務所(八王子、岡崎、大阪、北九州と4つあります)へ送られることになっていますが、統計上でも精神障害者の15〜25%は医療刑務所でない刑務所で処遇されています。明らかな統合失調症、躁うつ病、中等度以上の精神遅滞、中等度以上の老年期痴呆を有する者が、精神科医のいない施設で処遇されている場合もあります。
 刑務所を出所する際に、まだ治療を要する症状や障害が残っている場合がありますが、治療の継続についての援助はほとんどありません。紹介状の交付や、適切な医療機関の紹介等もなされない場合の方がはるかに多いのです。生活保護・障害年金や各種福祉手続への援助もほぼ皆無です。そもそも住居の確保すらできない場合も少なくないのです。サポートしてくれる家族等がいない場合は、多くの精神障害受刑者はまさに「放り出される」形で出所となります。
 「精神障害者は犯罪をしても刑罰を受けない」などという誤解がありますが、それは誤りです。法務省から公表されている統計でみても、ある一時点でみると、本邦の受刑者全体で6万人前後のうち450人前後を精神障害者が占めます。受刑者として新しく拘禁される年間2〜3万人のうち、800〜2000名が精神障害者です。裁判で精神障害を理由とした減刑(心神耗弱の認定)がなされている人は年間50〜100名程度に過ぎませんので、受刑する精神障害者の大半は減刑もされていないことになります。法務省の統計には見落としもありますので、実際にはこれらよりも多い数である可能性もあります。

 


Q17.鑑定医とは、どのような資格を持った人がなるのですか?

Answer 17


 この法による鑑定は、「精神保健判定医又はこれと同等以上の学識経験を有すると認める医師」が行うことになっています。「精神保健判定医」とは、「この法律に定める精神保健審判員の職務を行うのに必要な学識経験を有する医師」のことで、「精神保健審判員」とは、この法に基づいて、裁判官と合議をして対象者の処遇等について決定をする人のことです。現状では、所定の3日間の研修を終えた精神科医がなることができるもので、いわゆる司法精神医学・司法精神医療への特別の経験は必要ありません。


Q18.鑑定入院の期間は定められているのですか?
   審判の決定が下るまでの間に対象行為を行った際の精神症状が改善された場合はどうなるのですか?

Answer 18


 鑑定入院の期間については、申し立ての却下か入院・通院命令等の決定が出るまでですが、長くても2ヶ月を超えてはいけないと定められています。ただし、1ヶ月間に限り延長することができるとされており、最長で3ヶ月となります。
 このような長期にわたる鑑定中には、対象者の精神症状は多くの場合変化しています。中には、精神症状が消失してしまうこともないではありませんから、質問のように「対象行為を行った際の精神症状が改善された場合」が問題になることは決して珍しいことではありません。
 しかし、この法律では条文を読む限りは、その際の処遇を決定する根拠がありません。そのために、すでに現実には、精神症状が改善して通院治療をしている対象者が、あらためて入院処遇を命じられるという、常識的には理不尽なことも起こっています。
 というのは、肝心の条文中に「同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせるか否かについて」鑑定を行うとありますが、そうすると鑑定終了時に「事件時の精神症状」そのものは改善していたとしても、再発に対する処置が十分でないと見なされれば、なおこの法による処遇を行う根拠となりうるからです。
 しかし、もう一方で、鑑定中に精神症状が改善したとすれば、それは一般精神科医療によって改善したということを実証したことになるわけですから、「この法律による医療を受けさせる」必要がないことも明らかです。

 法律には運用の実態によって解釈が変わるという宿命がありますから、このような解釈の違いが生じること自体を責めるわけにはいきませんが、そもそもの条文中、しかも法律の最も根幹となる条文にトートロジー(同語反復:定義の中に定義されるべきもの自身が現れてしまっていること)が含まれてしまうような法律を成立させたことは、日本の立法府の汚点といってよいでしょう。

 


Q19. 対象者が後にその行為をしたことを否定した場合には、再審の請求はできますか?
 また、その行為と無関係であることが後で判明した場合には、誰が責任をとるのですか?

Answer 19


現在執筆中

 


Q20. 鑑定入院受け入れ病院・指定入院医療機関・指定通院医療機関には、
   どこから、どれくらいの報酬が出るのですか?


Answer 20

現在執筆中

 

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